Flowe of life -Life is ART-

旅する絵描きの日々と想い。

【狂犬病】命の危機に晒された一人旅女子

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右腕が、ジンジンする。


昨日と、一昨日は、左肩に注射を打って貰ったのだが、腕の重みと痛みが不快で、今日は右肩に打ってもらう事にした。


『明日は、どっちに打って貰おう。』


なんて考えながら、昨日散歩しながら見つけた、サウナに向かった。


時折、頭が重く、痛む。
高山病の症状だろうか。


ボリビアの、ポトシは、標高4000メートル。


世界一、標高の高い場所にある街だ。


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世界遺産のセロリコ鉱山が、街から一望出来る)


富士山より高い場所での生活は、私にとっては、気軽では無い。


日本は梅雨入りした頃だろう。

南米は、冬真っ只中で、標高の高いこの街は、特に寒い。


泊まっている宿のドミトリー(相部屋)には、体調が悪そうな旅人がちらほら。


私は、サウナで温まり、少しでも免疫力を上げたかった。


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道端で寝ている犬に、注意を払う。

近寄って来る犬に対して、敏感に反応してしまう。



初めて海外に出てから今まで、海外の犬に対して、恐怖を感じる事など、ほとんど無かったのに。


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5月に入ってすぐ、ある昼間の出来事だった。


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(山の麓で、ゴミ山を漁る豚)


世界遺産のセロリコ鉱山。

この鉱山は、奴隷による激しい労働が問題になった歴史もあり、多くの犠牲者が出ている。(推定約800万人)


その山の近くまで来ると、隣の山の頂上に、十字架が見える。


山から降りてくる人々に声を掛けると、「20分で登れるよ」と言われた。

私は、その山を登り始めた。



登っている途中、採掘の為に作業をしている鉱夫を数人、見かけた。


彼らは私に、陽気に声を掛けた。
そこでは、女性も働いていた。


私は、作業の見学や、手伝いをさせて貰った。


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穴の奥は、アリの巣の様に右往左往に広がっていて、外の気温より少しあたたかかった。


岩を削ったり、運ぶ時に出る、砂埃が目に入る。
時には吸い込み、むせてしまう。
中々、劣悪な環境だ。


作業服を着て、ヘルメットとライトを頭に装着し、長靴を履いて、手袋をして作業をするのが、通常。


しかし、私に声を掛けてくれた優しいお父さんは、素手で作業をしていた。



「手袋は嫌いなんだよ」




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「美しいだろう」


そう言って、採れた石を渡された。
お父さんの目はキラキラしていた。


危険な現場を少しだが体験し、心配する私の気持ちとは裏腹に、彼らは仕事に誇りを持っていた。


暗い過去も、多くの犠牲者も、
彼らにとっては忘れられない事のはず。
しかし、それを超える程の何かが、
この仕事を続けさせるのだろう。




とても親切にしてくれた、作業員の方々に御礼を言い、その場を立ち去ろうとすると。


「モネダ」


お金を求められた。


海外ではよくある事だ。
仲良くなった(と感じた)分、少し、残念な気持ちはするのだが、貴重な体験をさせて貰った御礼はしたい。


大きな金額のお札と、小銭しか持っていなかったので、小銭をありったけ渡した。


ハグをして、笑顔でお別れだ。



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登山の途中だったので、さて、頂上へ行こうと見上げたのだが、どうも、そこまでの道が見当たらない。



危険な道しか無さそうだったので、私は登山を諦め、さっき車が通っていた道を戻り、下ろうと歩き出した。



その時だ。


「ワンワン!!!ワンワン!!!」


犬が私に吠えた。


そんな事はよくあったし、吠える犬ほど、近付いて来なかったりする事が多かったので、油断していた。



10メートル程先の右側には、5.6匹の野良犬。



吠えては来るが、道は一本しか無いので、進むしかない。



なるべく左に寄って歩く。




「ワンワンワンワン!ワンワン!」




ー気付いたら、2匹の野良犬が傍にいて、私の右腕と右足を咬んでいたー



本当に、気付いた時には咬まれていた。



ー記憶が飛んでいるー




ショックで、何が起きたのか、一瞬分からなかった。



倒れ、叫ぶ私の声を聞いて、おばさんが、犬を追い払いに来てくれた。



おばさんは、犬に、石を投げて追い払った後、すぐに去り、遠くから私を見ていた。
(このおばさんがいなかったら、どうなっていたのだろう、、本当に感謝だ)


動こうとするも、
足がすくんで、動けない。



見ると、ズボンは破けている。
しっかりと犬の歯が足に、食い込んだ跡があり、血が出ていた。




早く、病院行かなきゃ、、。



気合いで立ち、歩き進めるが、更に前には、別の犬が立ちはだかる。


ー恐怖だー


道を逸れ、岩場を滑り降りた。


通りすがりの車に、止まって欲しい事を手を振り伝える。


すぐに、病院に連れて行ってくれた。
ホッとして、涙が溢れた。



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スペイン語圏に入ったのは、10月の半ば。キューバからだ。


それから、メキシコを旅して、11月末に一時帰国。


2月頭から、南米に入った訳だが、少しはスペイン語に慣れていた時で、良かった。


必要最低限の単語や、よく使う文法くらいしか話せなかったが、ある程度会話として成り立つ時もあった。



「旅に言語は関係ない。英語が話せなくても旅をしてる人は沢山いる」



事実、そうだった。


私も、コミュニケーションは、言葉だけじゃない。笑顔、ジェスチャー、絵、どうにでも伝えられると思っていた。



しかし、現地の言葉を知れば、旅はさらに楽しくなる。



そして、トラブルや事故に遭った時、少しでも現地の言葉を話せた方がいいのは、明確だ。






私はこの時、言語の大切さを改めて感じた。




犬に、咬まれた事。
いつ咬まれたのか。
どこで咬まれたのか。
私は果たして、大丈夫なのか?



少しでも、聞き取り、伝えられた事により、きちんと処置されたのだと思うと、安心出来た。


もし、スペイン語がさっぱりわからなかったら、どんな処置をされていたのかと思うと、恐ろしい。


幸い、ボリビアは、狂犬病の対策に、力を入れている国だ。
そして、ワクチンが常備された街での出来事だった。ツイてる。
(とは言え、日本の高い医療水準に慣れている私は、ボリビアの医療に不安感があったのは否めない)



一軒目の病院では消毒のみ。
そこで紹介された病院に移動したが、そこにはワクチンが無かった。
その次に行った保健所らしき場所で、やっと注射を打って貰えた。



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注射器は、薬局で自分で買った。
一緒に、化膿止めも購入した方が良いとの事。



注射器は、10本で150円。
化膿止めは、10日分で600円だった。

安いと感じると思う。
しかし、もしこれが物価の高い国だったらー。


保険の大切さも、改めてひしひしと感じる。
(今までも、想定外の事が起きて病院に行く事はよくあった)

ボリビアでは、犬に、飼い主がいる事が明確な場合、治療費は飼い主負担の様です。

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(現在、毎日打って貰っている、ワクチン)



命はお金で、取り戻せない。



同じ様に、旅をしていて亡くなった方々の事や、海外で犬に咬まれ、日本で狂犬病を発症し亡くなった方々の事を考えていた。


実際、犬に咬まれた旅仲間もいるし、
犬に、追いかけられた友達の話も聞いた事がある。


それは、身近なはずだった。


しかし、どこかで他人事と思っていたのだろう。

犬に咬まれるなんて、滅多に無いだろう。
そう思っていた。


まさか、自分が、狂犬病によって、命の危機に晒されるとは、思っていなかった。


想像力には限界がある。


自分の身に命の危険が降りかからなければ、命の大切さは、きちんと実感出来ないのかもしれない。




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注射を、あと4日連続でワクチンを打って貰ったら、移動する予定だ。



咬まれてから連続で7日と、10日後、20日後、30日後と、帰国してからも注射を打たなければならない。

ポトシの場合。他の国では違う事もある。私が狂犬病の予防接種を受けたのは5年前)



しかし、何度注射を打とうが、痛かろうが、命には替えられない。




死は必然で、そこには必ず、意味や、遺された人々へのメッセージが内包されていると思っている。(そう思わなければ、乗り越えられない)


悲しいが、悔しいが、前を向くしかない。日常に、戻るしかない。


いくら嘆いても、
命は、還ってこない。




だから、やっぱり、悔いの無い日々を送ろうと、強く思った。




まだ、死ねない。





注射を打ちに行かなければ、狂犬病を発症して、死んでいたかもしれない。

(咬んだ犬が狂犬病かどうかは分からないが、突然、訳もなく咬む犬は可能性が高いようだ。そして、狂犬病は発症すると100%助からない。最も致死率が高い病気として、エイズと共にギネス記録にもなっている)



私はまだ、遣り残した事が沢山ある事に気付いた。






「死ぬかもしれない。死にたくない。」




腕の痛みが、足の痛みが、それを感じさせてくれた。


人はいつも、死と隣り合わせだ。
それはいつ来るか、分からない。
ただ、普段、平和な時は気付かない。
当たり前だと感じるからだ。




死を意識した時に、「生きたい」と言う欲が出て、何かをしたいと行動する。




死の持つパワーは凄まじい。



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「人を喰う山」



そう呼ばれる山の麓にいた事を、後から知った。




私が助かった日に、日本でも、世界でも、亡くなった方々が大勢いる。



旅をしていて、いくらでも、危険なシチュエーションはあったが、私はこうしてまだ生きていられる。



自分の人生に意味を持つ為に、必然的な出来事が、人生では度々起こる。



今回の出来事に、ネガティブな感情は、全く無い。
咬まれて良かったと思えるのは、この経験が、役立つ時が来ると信じてるから。



まだまだ、人生の仕事が、終わっていない。



「大丈夫よ」



看護師さんの言葉は、安心をくれた。






さて、今日は何をして、生きよう。






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(咬まれて2日。痛みも引いてきた)

※大袈裟なタイトルで、心配させた方すみません。私は元気です。狂犬病は犬以外に、キツネや猫やハムスター、リスなど、哺乳類同士で感染します。海外に行く際は、気を付けて下さい。予防接種も、保険も、とても大切です。


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